サックスはわからなくても吹けてしまう楽器である

サックスは他の管楽器に比べて音が出し易い楽器です。なので、大人になってからでも趣味として始め易い、ハードルが低い、取っ付き易いなどと言われています。しかし、それ故の弊害もあるのです。

 

管楽器は身体まで楽器の一部だと言われることがあります。それは決して大げさなことではありません。出したい音をイメージして身体(特に口の中など)を変化させないと、狙った音が出ません。トランペットやフルートなど、特に発音が難しい楽器は尚更です。そして、まともな音が鳴るようになったり、出せる音域が広がったりすれば、それはイコール上達していることになります。また、出したい音をイメージしているということは、自然と音感が身に付くことになります。

 

しかしサックスはちょっと違います。良い音かはさておき、音自体は簡単に鳴ります。出したい音をイメージしなくても、身体を変化させなくても、とりあえず音は出ます。運指を覚えるだけで何とかなってしまいます。なので、音が出たり音域が広がったりしても、それは運指を覚えただけで本当の意味で上達しているとは必ずしも言えません。そしてこれでは音感は身に付きません。

 

例えば中高の吹奏楽では、譜面を貰って本番が数週間~数ヶ月先なのが普通です。同じ譜面を何度も何度もさらいます。それだけやっていれば自然と音が頭に入って、それだけなら歌えるようになります。でもそれでは音感はなかなか養われないので、別の譜面が来たらまた同じように何度もさらわなければいけません。

 

そんな習慣が当たり前だった人がジャズをやろうとしたらどうなるでしょうか。ジャズの練習は、一般的にはとにかくフレーズを覚えることだと言われています。それを鵜呑みにすると、膨大な量のフレーズをとにかく吹きまくり、覚えないといけません。でも音感がないので凄く時間がかかるし、キリがありません。しかしその方法しか知らないので、余程の根性がなければ上達は止まってしまいます。

 

普通に上手くなってプロになって人に教えられるような人は、他の楽器と同じように、自然と音をイメージして練習してきた人がほとんどです。それが当たり前になっている人です。当たり前になっているので、音をイメージしないで演奏している人がいることを知らない場合があります。そういう人はわざわざそこには触れません。お互いがお互いのやり方が当たり前だと思っているのです。当たり前を確認し合うことはまずありません。例えばレッスンでコードトーンへのアプローチ方法などを教えたとします。先生は音のイメージを含めて練習してくると思っていますが、普段から音のイメージをしていない生徒は運指だけで練習してきます。ある程度までは出来てしまうのでレッスンはそのまま先に進みますが、難しくなってくるとそれ以上出来なくなってしまいます。でも先生としては普通に順番に教えているつもりなので、出来ない原因がわからず、練習不足だとか、向いていないと思われてしまうことも少なくありません。また、音のイメージをちゃんとしていなくても、凄い根性だけで上手くなってしまった人もいます。その人が人に教えるときはやっぱりどうしても根性論のようなものになってしまいがちです。

 

はい、これはほぼ私の実体験です。中高で吹奏楽をし、大学からジャズを始めました。とにかくフレーズを吹きまくったり偉人の演奏をコピーして練習したにもかかわらずなかなか身に付かず、数年苦しんでいました。自分にジャズは向いていないのではないかと思ったことも何度もありました。レッスンしてもらえば何か分かるかもしれないと思い探していたところ、あるものを見つけます。それは相対音感トレーニングのレッスンでした。興味を持った私は早速レッスンを受けました。そこで驚愕します。私は、自分がこんなにも音感がないことを全く自覚していなかったのです。ほんの少しずつですが上達もしていたので、このままやっていけばそのうち上手くなるものだと思っていたのですが、完全に間違いでした。ここから私は相対音感のトレーニングを本格的に始めることになりました。そして進めていくうちに、自分の音感と楽器の演奏が段々とフィットしていく感覚を得られるようになっていきました。頭の中の歌が楽器を通して音になる感覚がわかって初めて、アドリブとは本来こういうものなんだなと思いました。覚えたフレーズの羅列ではなく、本当に音楽をやっている実感がありました。

 

さて思い出にふけってしまいましたが、私が言いたいことは、運指だけや譜面だけでなく、必ず音を結びつけて練習しましょうということです。相対音感トレーニングの話をしましたが、絶対にこれをやらなければいけないわけではありません。アドリブとは歌であり、運指は後からついてくるものです。特にニューオーリンズ、スイング、ビバップ、ハードバップくらいまでは、自然な歌とその延長で出来ると思います。それ以降のもっと難しい即興性の高い音楽をやりたい場合は相対音感の体系的なトレーニングが必要かもしれません。もちろん相対音感があるに越したことはありませんが、どこまでやるかは、どこまでやりたいかによります。これに関連することを過去の記事に書いてあるので参考にしてください。

 

ジャズにおけるアドリブ考察

 

とにかく、音を結びつけて練習しましょう。音・歌そのものを強くイメージしながら、意志のある演奏をしましょう。

 

サックスはわからなくてもなんとなく吹けてしまう楽器です。それ故に、自分のやり方が、やりたいことに対して合っていないことを自覚出来ない場合があります。上記の例はあくまでも私の場合であり、例えば暗記がとても得意の人は、とにかくフレーズをたくさん覚えることで音感を身に付けることが向いている場合もあるかもしれません。自分の今のやり方が本当に自分に合っているか、今一度確認しましょう。