ジャズにおけるアドリブ考察

アドリブとは、簡単に言うと『自由に演奏すること』です。

では『自由』とは何でしょう。

 

『自由』と言ってもデタラメで良いはずはなく、そこにはルールや秩序があって…という話はいたるところでされていますね。僕が言いたいのはもっともっと根本的なことです。

 

『自由』を『思ったこと』と言い換えると、アドリブとは『思ったことを演奏すること』になります。

では『思ったこと』とは何でしょう。

 

運指のことでしょうか。

コードトーン・テンション・スケールなどの理論のことでしょうか。

過去の偉人のフレーズのことでしょうか。

 

違います、というより、もっともっと根本的なこと

 

音・歌そのもの』のことです。

 

ここで少しアドリブの話から離れます…

 

・楽器で歌う

 

例えば、みなさんもカラオケなどで一曲は十八番の歌があるかと思います(ない方はごめんなさい)。何度も聴き、何度も歌い、細かなニュアンスや声色まで真似て歌えるような歌です。仮にそれを『サザンオールスターズ / 勝手にシンドバッド』としましょう。

 

「ラララー」の後の歌い出しの歌詞「砂まじりの茅ヶ崎」の部分を歌うとき、「すなまーじりのーちーがさーきー」と、棒読みならぬ棒歌いにはならないはずです。十八番なのですから、きっと「すんなっまぁじぃりのぅ~ち~んがっさぁ~きぃ~」となるはずですね。それを楽器で演奏してみましょう。歌と同じようなニュアンスが自然に付くか、出来なくてもニュアンスを付けたくなると思います。

 

この「すんなっまぁじぃりのぅ~ち~んがっさぁ~きぃ~」こそが、音・歌そのもの』なのです。もちろんジャズのアドリブの場合は歌詞がありません。細かなニュアンスや声色(楽器の場合は音色)の一例です。この音・歌そのもの』を頭の中でイメージしてそれを楽器で歌うのです。

 

 

さて、話をアドリブに戻します。

 

音・歌そのもの』をイメージし楽器で歌うという話をしました。しかしジャズのフレーズはカラオケで歌うような曲とは違い難解で、なかなか歌えるものではありません。なので、既存のフレーズを覚えコードに当てはめて指を動かすだけのような作業になってしまいがちです。でもそれは、『ジャズの基本はビバップである』といった認識が当たり前になっているからではないでしょうか。

Louis Armstrong - My Heart (1925)

ビバップが生まれる前、スイングジャズよりも前、ニューオーリンズジャズと言われている時代の演奏です。半音階やテンションノートなどがほとんどありません。当時はジャズ理論なんてものはなく(または知られてなく)、歌う代わりに吹いるような感覚だったのだろうと思います。音使いは単純ですが、とても表情豊かで、まさに歌っているようです。

 

例えばピアノでCの和音(ドミソ)を弾き適当に歌ってみると、合う音と合わない音が何となくわかると思います。次にGの和音(ソシレ)でも同じことをしてみます。次にCの和音とGの和音をゆっくり交互に弾きながら歌ってみましょう。だんだん歌えるようになってきませんか?当時のアドリブはこれの延長だったのだろうと思います。アドリブは自然に出てくる歌だったのです。音・歌そのものだからこそ細かなニュアンスが自然に出来て、表情豊かな演奏になるのです。

 

そしてジャズはクラシックの理論を取り入れたりリズムを細分化することでどんどん難しくなり、自然な歌ではなくなっていきます。それがビバップであり、現代のジャズの基本になっています。つまり、自然に歌えないほど難しくなったところからジャズの勉強がスタートするわけです。

 

おかしいと思いませんか?

 

  

現在のアドリブの方法論は、自然な歌から離れてしまったところ(ビバップ)から始めるようになっています。しかしアドリブの原点は自然な歌であり、歌を楽器で演奏することだったはずです。そこが楽器演奏の謂わば肝であり、そうでなければならないことです。少なくとも、そこから始めるべきだと思います。

 

では自然に出てこない歌は演奏してはいけないのか。そうではありません。自然にはなかなか出てこない歌を知るために理論があります。例えば半音階、オルタードテンション、裏コードなどです。訓練して聞き慣れれば自然に感じるようになりますし、もっと訓練して身につけば自然な歌として出てくるようになります。歌えるようにすればいいだけの話です(それが一番難しく時間がかかるのですが…)。

 

もっと難しくなると、今度はイメージが出来ていても歌唱力が追いつかないという事態になります。でもここまでくれば、イメージは完璧に出来ているという自覚があるはずなので何の問題もありません。それにゆっくりなら歌えるはずです。

 

余談ですが、ピアニストのキース・ジャレットは、演奏中に奇声を上げることで有名です。しかしよく聴いてみると、たまにその奇声とピアノのプレイがぴったり一致する箇所があります。これは、頭の中では完璧に歌っていてそれを演奏していて、声でもやろうとしているが歌唱力が追いついていない状態なのではないかと推測できます。

 

さて長々と書いてきましたが、これをまとめると

 

・歌えることを演奏しましょう。

・演奏したいことを歌えるようにしましょう。

 

ということになります。どんなに難しくなってもこれが基本であることを忘れてはいけません。アドリブとは歌である!

 

 

ジャズにおけるアドリブ考察 終わり